Intermission ―あるいは、ベルナール・シャトレの災難―







                                                   
                                               作 アンジェリーナさま



これが災難といわず、何が災難だったのだろうか。

いくら、身から出た錆びとはいえ、やはり、災難なのに変わりはなく、妻と子が去った、遠いノルマンディーに思いをはせた。

すべては、あの、妻ロザリーの置手紙の一文「オスカル様のお乳が足りない云々」だった。オスカルがアンドレと結婚していたとか、そんなことをロザリーから聞いていたようなきもするが、バスティーユ後の忙しさで、わが子の誕生にさえ立ち会えなかったベルナールにとって、ノルマンディーで結婚生活を送っているらしいオスカルが、まさか身重だったなど思いもしないことだった。

だから、ラソンヌ邸でアランと酒を飲んだ時、素直に言ったのだ。

「いや、まさかオスカル・フランソワが結婚してたなんて、それだけでも驚きなのに、まさか双子を出産してたなんてな」

「おれは、あの日知ったよ。クリスが『おなかの赤ちゃんが死んでしまう』って、大声だして。隊長があの、俺たちが解放された日、倒れたのは切迫流産だったらしい」

そして、アランはグラスを空けた。

「10日もアンドレはごまかしていたんだからな」

そして、グラスに酒をなみなみと注いだ。

「いつ結婚してたんだろうな」

と、ベルナールは純粋な好奇心から言った。

「さあな。でも、いつ結婚してたとしても、子供ができたんだ…」

「そうだよな。てことは、アンドレはあの、オスカル・フランソワを抱いたってことだろ」

「そうだよ。アンドレのやつ…最低でも一回は…やりやがったんだ。ちくしょー、アンドレのやつ、隊長といい思いしやがって」

アランの酒量が増していく。

「オスカルがもし男だったら、決闘してただろうな」

「そりゃ、隊長が女性でよかったな。隊長の腕では、おまえなんか、あっというまに、地獄の一丁目だからな」

アランは、もう飲みほして、あらたに、酒を注いでいた。

ベルナールは、このアランの様子に、ただ、酒の速い、飲兵衛という印象しか持ってなかった。アランの複雑な胸の内を理解していなかった。

 そう、アランは失恋していたのだ。

 まったく叶うはずのない恋だった。

 バスティーユ後の多忙さが、アランの失恋の痛手を遠ざけていた。しかるに、今日、あの日を共有したベルナールとの酒の席は、彼に失恋の痛みを思い出させるのだった。

「まったく、ロザリーはオスカル様、オスカル様だろ。まさか、乳母をやりに行くなんて」

「いいじゃないか。ノルマンディーの、けっこうのんびりしたところらしいし、領民もアンドレがうまく交渉してるらしいし。おまえは寂しいだろうけど、ロザリーやフランソワにはいいんじゃないかな」

「わかってるけど…オスカル様のお乳が足りないなんて書いてあるだろ、俺意味わかんなくてさ」

「なんでだよ」

「普段オスカルはけっして女性にみえないようにしてただろ。胸も抑え込んでたみたいだし」

「なにがいいたい」

「オスカルは、そりゃ、胸は小さいだろうよね」

とたんに、アランの顔から血の気が引いた。

「なんだと」

「だから、なんだっていっても、まさか…」

いきなり、アランはベルナールの体に手足を巻きつけて締め上げた。いわゆる、コブラツイストというやつだ。

「ひぃー」

ベルナールが悲鳴を上げる。

「な、なにするんだ、放せ、ひ、いいいいてててて〜〜〜」

アバラ骨が折れるのではないかと思われる痛みが走った。

「ベルナール、なんてことぬかすんだ!」

「いや、だから、オスカルの胸…ぎょえええええ〜〜〜〜」

ますます、力が入っていった。

「助けてくれ〜〜〜」

 ベルナールがふと、顔をあげると、そこには酒のつまみと、追加の酒をもったアランの母とディアンヌが立っていた。

「あああああ、マダム、たたたたた…」

 しかし、マダムソワソンもディアンヌも、テーブルに酒とつまみをおくと、何事もなかったように部屋を出ていく。

「ああああ、たたたたた……あああ〜〜べべべ〜〜〜〜ししし〜〜〜」」

 ドアを閉めようとしたマダムソワソンはひとこと、

「婦女子の胸がどうのこうのなんて、まったく失礼な。アランしっかりおやり」

「おうよ!おふくろ」

 母に激励されたアランはさらに、力を込めた。

「よくも、俺の隊長に…。

 翌日、ベルナールは激しい頭痛で目が覚めた。

 二日酔である。

 ベルナールは、その日、一日、頭痛のためラソンヌ邸で寝て過ごすことになる。

 そして、その翌日、あの、アランのかけたコブラツイストのための筋肉痛が始まった。

 ついでに、ベルナールはアランが密かにオスカルに想いをよせていたことに気がついたのだった。

 

「兄さん、昨日ベルナールさんを痛めつけてた、あれ何なの」

 朝、本部に戻ろうとするアランにディアンヌが聞いた。

「ああ、あれは、アンドレに教えてもらった間接技だ。なんでも、アンドレのやつ、あれを彼のばあさんにかけられてたんだって。『ヤキをいれる』ってね」

アンジェリーナさまが悲喜こもごもの悲の方を書
いてくださいました。かわいそうだけど笑ってしま
います(^o^)。
アンジェリーナさま、ありがとうございました。  
                   さわらび
 


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