IntermissionU〜ベルナール・シャトレの災難再び
その日、ベルナールの詰めてる事務所にフランソワ・アルマンが現れた。
ラソンヌ邸での食事会の招待を知らせるためにだった。
「ベルナールさん、ヴェルサイユのジャルジェ家にノルマンディーからの便りが届いたそうです。で、今日、クリスさんが往診の帰りに預かって帰るから、みんなで食事しながら手紙を読もうということになりました」
ノルマンディーからの手紙。
それはベルナールが首を長くして待っているものだった。そう、彼の妻子からの便り。
ベルナールがラソンヌ邸に着くと、なぜかフランソワ・アルマンが出迎えた。
「なぜ、こいつが」と、訝りながらも、ベルナールは客間に入っていった。
ソワソン夫人とディアンヌが料理をテーブルに並べているところだった。
「今晩は、それより、ロザリーからの手紙」と言いかけたベルナールの目前に差し出されたのはベルナール宛の封筒。差し出したのはアランだった。
「アランか、」
ベルナールはアランから手紙を受け取るや、封を破ると一心不乱に読み始めた。
内容は、ノルマンディの自然の中で、フランソワはすくすく育っていること。
そして、オスカルの双子がオスカルそっくりでとても美しいこと。
置手紙だけで出てきてしまったことへの詫び。そして、もうしばらくはこちらに留まること。こちらは治安も、食糧事情もよく、フランソワのためにもいいことだと書かれていた。
「フランソワのため」
ベルナールには、この一言はとても効くのだ。
「オスカル様のため」だったら、きっと彼は逆上しただろうが、可愛いわが子のためなのだ。否といえるわけではないのだ。
ベルナールが手紙を読み終えた時点で食事会が開始された。
ベルナールとアランが並んで席についた。向いがわには、なぜかフランソワ・アルマンがちゃっかりディアンヌの横にいる。なぜ、(こいつがここにいるんだ)と思ったが言葉にはしなかった。
「しかし、隊長がねえ」
アランは、どうも、未だに信じられないようだ。信じられないというより、信じたくないのだろう。それは、ベルナールには痛いほどわかった。というより、痛い目にあってわかったといったほうが正しいだろう。
「そうだね、アラン。本当にびっくりしたよ。でも、よかったよね。隊長だってあのまま軍にいるより、安全なノルマンディでまったりしてるほうがさ。でも、隊長、性格的におとなしくしてるかなあ」
「アンドレが睨みを利かせてるから大丈夫だろう」
アランが言った。
「でも、隊長の妊婦姿ってどうだったのだろうね。きっと隊長は見られたくないだろうけど」
フランソワも、憧れのオスカルとはいえ、多少好奇心があるようだ。
しかし、アランは思った。
―ノルマンディに隠遁してくれて本当によかったよ。隊長の妊婦姿なんて見たくもないよ。ま、隊長だって見られたくないだろうが。
ところが、ベルナールが
「そうだな、やっぱりこういうのは、見てみないと信じられないのじゃないかな」
と、好奇心むき出しの発言をしたが
「コホッ」
というソワソン夫人。話の内容がはしたないと注意を促した。
そこでベルナールは、ロザリーの手紙の内容、つまり、フランソワと双子の話題に切り換えた。
無事食事が終ると、フランソワ・アルマンは帰宅。
アランとベルナールが客間に残った。
ディアンヌが酒とつまみをもってきた。
「お兄様たち、お酒は何本かおいておくわね。それからつまみはたりなくなったら、お台所にとりに行ってね」
「ディアンヌはもう帰るのか」
アランが聞くと、彼女はニッコリ笑って
「いまからお産があるから、クリスと言ってくるわ。お母様は泊まり込みよ」
食堂にはアランとベルナールが残された。
アランはベルナール宛のオスカルとアンドレの手紙を渡した。
アンドレからのは手紙の内容は、双子を想定していなかったことへの不備と、家族を離れ離れ離れにしてしまったことへのわび状だった。
オスカルからも、授乳にたいする無知のため、大変迷惑をかけたといったわび状だった。
まったく、最初からその知識があれば、ロザリーと離れ離れになることがなかったのにと、オスカルに授乳させなかったマロンが恨めしく思われた。
アランはアランで、ほんの少しではあるが、赤ん坊に授乳しているオスカルというシチュエーションが信じられない、というより信じたくなかった。
「で、アラン、おまえんとこには」
「俺のところには、将校に返り咲いたことのお祝いの言葉と、将校としての心得だが、ところで、双子の名前はミカエルとノエルだな」
「そうだよ。ミカエルが男で、ノエルが女」
「でも、ノエルは男文字だそうだな」
「そうだよ」
「ミカエルが男なんだな」
「そうだよ。オスカルは、なんでもミカエルには授乳してたらしい。ロザリーがいくまでは」
そこで、オスカルの授乳姿を想像したが、決して口にはだしてはいけないと、ベルナールは自分に言い聞かせた。
オスカルに一生分の片想いをしているアランにきかれたら、前回以上に痛い目にあうことは必至だ。
「つまり、隊長は女の子に授乳したのではないんだな」
「そうだよ、ロザリーからの手紙にも書いてある」
「なんで、男なんだよ。女ならまだ許せる」
「なに言ってるんだ、アラン」
「だいたい、アンドレの息子ってのも気にくわねえ。娘ならまだ許せる。なんで、男の子なんだよ」
アランがわめきだした。
よく見ると、もう酒を一ビンあけていた。
「隊長の胸に、なんで男が、アンドレの息子がしゃぶりつくんだあ」
「そりゃ、オスカルの息子だから、別にいいじゃないか」
「許せん!アンドレ、許せん!」
「何言ってるんだ。いいじゃないか、二人は結婚してるんだから」
「結婚してようと、息子だろうと、男が隊長の胸しゃぶるなんて、俺は許せん!」
「はあ」
ベルナールはアランを見た。
すっかり眼は座っている。
そして、視線をベルナールに移した。
「そういや、おまえ、アンドレに似てるな」
「まあ、そりゃ」
アンドレが偽の黒い騎士になったのも、二人が微妙に似ているからだった。
そうこうするうち、アランはさらに酒の速度が上がった。
「なんで、アンドレ、ここにいるんだよ」
と、ベルナールに向かって言った。
「いや、俺はベルナール…」
と言おうとしたとき、
「アンドレー、ミカエルー、二人とも許せん!」
と叫ぶや、ベルナールに、またしても技をかけた。
前にかけた技が、20世紀以降「コブラツイスト」呼ばれるなら、今回のは「卍固め」といわれる技だった」。
「ギョエー、人違いだ、俺はベルナールだあああ!ヒィエー…」
その時、無事にお産を済ませたディアンヌとクリスが帰ってきた。
「おや、お帰り。お茶でもどうだい」
ソワソン夫人が二人を出迎えた。
「そういえば、お母様、またベルナールさん…」
「どうせまた、オスカル様のことでアランを怒らせる事言ったのですよ。ほったらかしておきましょう」
「そうですね」
「そうしましょう」
と、クリスまで賛成して三人はリビングへ消えていった。
あとはベルナールの悲鳴のみがこだましていたのであった。
おしまい
2008年ノエルの続編です♪
いついかなるときもかわいそうなベルナール。
笑っちゃかわいそう、と思いつつ、ついつい笑ってしまいます。
シリーズものがどんどん誕生して本当に嬉しいです(^o^)。
アンジェリーナさま、ありがとうございました。 さわらび
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アンジェリーナさま 作