Contes de Perrault〜ペロー童話集〜

ペロー童話集(ぺろーどうわしゅう) [ 日本大百科全書(小学館) ] .Contes de Perrault

フランスの詩人であり作家のシャルル・ペローの童話集。1697年刊。正確な表題は『すぎた昔の物語ならびに小話』Histoires ou Contes du temps pass。扉に「がちょうおばさんの話」Contes de ma mre l'Oyeとあり、この名でよばれてもいる。「がちょうおばさんの話」とは民話の古称で、当時は「老婆の話」といった呼び名もあった。20世紀の音楽家ラベルも、ペロー童話を題材とした組曲『マ・メール・ロア』を作曲している。

ペロー童話集は、民間伝承の昔話をペローが創作童話化したものだが、発表されたときには、当時10歳の末子ピエール・ペロー・ダルマンクールの名が作者名として記されていた。内容は、「眠れる森の美女」「赤ずきんちゃん」「青ひげ」「ねこ先生または長靴をはいた猫」「仙女たち」「サンドリヨンまたは小さなガラスの靴(シンデレラ)」「まき毛のリケ」「親指小僧」の、簡潔で明快な文体をもって書かれた八編の散文からなり、各編の終わりには教訓moralitが添えられている。ペローには、ほかに、韻文による三編――「グリゼリディス」「ろばの皮」「愚かな願いごと」を集めた『韻文童話集』Contes en vers(1694)もある。現在では前記の散文童話集と一括して『ペロー童話集』としている。ペローの童話は、児童文学としてだけではなく、フォークロア、民話、幻想文学の源泉として高く評価されている。

1792年が明け、双子は二歳になった。
発する言葉は片言だが、問いかけられることは理解しているようである。
たとえば、母上はどこかと尋ねると、小さい指でオスカルを指し示すし、手を叩いてごらんと促すと、パチパチと二人で競ってかわいい拍手をする、といった具合である。
日々成長していく子どもたちを育てる上で、欠くべからざる指針と仰いでいたばあやが亡くなり、途方に暮れるどんぐり屋敷に足繁く通い、慣れない夫婦の指導にあたったのは、ばあやとともに六人の娘を育てたジャルジェ夫人であった。
こんなにひんぱんに来るならむしろ同居したほうが、とどんぐり屋敷の使用人は思うのであるが、そこは夫人なりにバルトリ侯爵家に対する遠慮があるようで、一週間ほどこちらに滞在すると二、三日はあちらという具合だった。

成長にあわせた食事、あるいは衣装なども夫人は手際よく指示し、足りない時は取りそろえてくれた。
特に衣類と玩具については、時節柄新しいものを作らせることは難しかったので、バルトリ家のお下がりが非常に役立った。
クロティルドが二人の子どもを育てていた折にしつらえたもので、いずれニコールに子どもが生まれた時に、との願いをこめてきちんと取り置かれていた。
中には、バルトリ侯爵の子ども時代のものもあり、由緒ある家は、基本的にものを粗末にしないのだということがさりげなく証明されていた。

玩具についても同様である。
木馬の乗り物などは、随分激しい使われ方をしたことがうかがえる傷がそこここに残ってはいるものの、破壊されているわけではないのだから、充分修理して使用することが可能だった。
また人形については、オルタンスが手作りのものを届けてくれた。
ル・ルーが持っているのと同様に、持ち主に似せた外観をしていて、ちゃんと二体あり、無論そっくりなのだが、ノエルの人形のほうがまなざしが若干鋭くなっている。
それで充分見分けられてノエルとミカエルが間違えないところが、オルタンスの素晴らしいところである。
縫い目などは決して美しくはなく、むしろいつ中から詰め綿が出てきてもおかしくないほど大胆な針使いなのだが、二人が気に入っているので、誰も取り上げて補修することはない。

このように、双子の成長に必要なものは夫人によって万端滞りなく整えられていたのだが、一方で夫人は一冊の本をオスカルに渡し、これを毎晩子供たちの枕辺で読み聞かせてやるようにと指示した。
それは1697年にフランスで出版されたペロー童話集である。
まだ二歳のこどもには少し早いかもしれないが、中身はこの際あまりこだわらなくてもよい。
ただ眠りにつくときに母の声が穏やかに流れていることが、子どもを安心させ良き眠りに導くのである。
そしてよく眠る子はよく育つ。
だから、たとえ日中はアンドレや使用人に世話を任せてもよいから、寝る時だけはオスカル自身がこの本を最初から読んでやること。
それが母から娘への唯一の指令であった。

かくしてオスカルは、毎晩毎晩ペロー童話集を読む羽目になった。
中身は問わないと言いつつ、だが、こう毎晩では飽きてくる。
聞く子供たちではない。
読むオスカルが、である。
「つまらんぞ、アンドレ。何か他のものではだめなのか?」
ようやく寝かしつけたオスカルは、アンドレの前に童話集を投げて寄越した。
「おいおい、大切に扱えよ。奥さまからの借り物だぞ。」
「ふん!ならば返そう。わたしはすっかり中身を暗記した。もはやなくても話してやれる。」
さすがに聡明なオスカルである。
おさめられた八話を全部暗記してしまったらしい。
「では自分で話をつくればどうだ?その八話をふまえて、ちょっと即興で改作してみるんだ。それなら考える楽しみもできるだろう?」
アンドレの提案はオスカルにとって非常に魅力的だった。
俄然、興味がわいてきた。
前もって考えるのではなく、即興というのがいい。
要するに思いつくまま語るわけだ。
どうせ子供たちは母の声だけ聞こえていればいいのだ。
「よし、それでいこう。」
こうして翌日の夜から、オスカルの創作童話の読み聞かせが始まったのである。


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