アンドレががあわてて開けた窓に片足をかけ、ひらりとオスカルは部屋に舞い降りた。
「久しぶりだな、ここから入るのは…」
オスカルはニヤリと笑い、それから机の上に広げられた手紙に目をやった。
もらった5通と返事の5通で10通、オスカルでなくても、何だと聞くにちがいない光景だ。
アンドレは気まずそうにそれらを束ねた。
「安心しろ、私信を見る気はない」
短く言い放ちオスカルは部屋のすみに置かれた寝台に腰をおろした。
別にやましいことはない。
もらった5通のうち3通はオスカルがジョゼフィーヌに送った手紙が原因だし、残り2通
もオスカルがらみ以外の何物でもない。
だが、やはりどれも見せるべき内容ではない気がした。
送り主がそれを望んでいないからだ。
でなければ彼女たちは堂々と妹宛に送っている。
わざわざアンドレ宛にしたそれぞれの姉たちの真意を汲まねばならないとアンドレは思った。
「今夜は夜勤ではなかったはずだが…」
オスカルが寝台から枕をとりアンドレに向かって投げた。
おかしなことを言う、一緒に帰ってきたのに、と思いながら枕を顔前で受けとめた。
「当然だ。でなければこの部屋にいるわけがない」
と言いながら枕を投げ返した。
難なく受け止めたオスカルは
「また、わたしに名案を思いつかせたいのか?確かもう勘弁してほしいと言っていたはずだが…」
枕を投げる強さが増した。
胸の前でズンと受け止めたアンドレは、ああ、そうだった、と思い出した。
オスカルが書いたジョゼフィーヌへの手紙はひとりの夜が長かったせいだと言っていた。
これからはおまえの夜勤につきあうとも言っていた。
待っていてくれたのだろうか。
時計を見れば、日付が変わっていた。
「そのとおりだ」
アンドレは枕を寝台に放り投げた。
「絶対に勘弁してほしい」
オスカルの名案の結果がこの手紙の束で、それゆえ部屋を訪れられなかった。
なのに何も知らずとがめて枕を投げてくる。
アンドレはゆっくりとオスカルに近づいた。
オスカルは至近距離に立ったアンドレをかわそうと立ち上がったが、無駄だった。
「こわい…な」
オスカルが笑った。
アンドレは手首をつかみ、引き寄せ、そのまま金色の蝶を手に入れた。
※プラウザを閉じてお戻り下さい。
蝶