作 かりめろさま


「う…」
「どうした?オスカル!陣痛かっ!」
「ばかもん。まだ産み月にはふたつきもある。あ…。こいつ…」
「痛いのかっ!待っていろ!いま…お湯を沸かす!!」
「だからっ!話をきけ…うぅぅ…」
「よし!お湯だ!お湯!」
「ばかもんっ!あ、いたいたた…」

もう…。パパったら…。本当にお湯を沸かし始めた。まったく…。いつもは冷静沈着なパパも、ママと『僕』のことになると慌てふためくんだ。ママが、お腹を痛がっているのは…。

「おい!ちびすけ!そんなに激しく動くな!お前のとう様は、人の話を聞かずに、湯を沸かし始めてしまったではないかっ!…まったく…。お湯より先に産婆を呼んでくるべきであろうに…」

ママは、『僕』にそう話しかけながら、まるで『僕』をいさめるかのように、お腹をさすった。

「仕方があるまい。とう様にお前の元気な動きっぷりを見せてろう」

ゆっくりと、椅子から立ち上がるとママはお湯を沸かし始めたパパの側に行く。


最近のママは、“あのころ”と随分と変わった。
“母親”になるという自覚に目覚めたというか…。

お腹の『僕』に話しかけることをとてもは恥かしがっていたのに、
「おはよう、ちびすけ」
「ほら。今日の空はこんなに青い」
「はは…。お前のとう様は、なんと呆けた顔で寝ていることか!」
「今日も無事、一日を過ごすことができたな、ちびすけ。おやすみ」

パパよりも多く『僕』に話しかけてくれるんだ。

さっきも…。

「ちびすけ…。お前はね。かあ様ととう様の宝物だよ…」とささやいてくれたんだ。
 
『僕』はとっても嬉しくって…。
最近、自由に動かすことが出来るようになった手足をばたばたしながら踊ったんだ。
だから…
ママがお腹を抱えて痛がっていたわけ。
ごめんね、ママ。でもとっても嬉しかったんだ!


「おい、アンドレ」
「オスカル!ダメだよ!じっとしていなければ!」
「ふぅ…。あのな、アンドレ。その湯は要らんぞ」
「何を言っているんだ!お産には…」
「はん!ばかもの。ほら、ここ、さわっていろ、今、ちびすけが踊りだすぞ。…いいぞ、ちびすけ」

え?いいの!じゃぁ〜、踊っちゃうよっ!

「う、う、う、う、う、うわぁ〜!なんだ!これ!オスカル!お前のお腹が波打っているぞ!!」
「うぅぅぅぅぅ…。ちびすけが…暴れているんだ…」

暴れている、呼ばわりぃ?え〜ぇ!ママ、ひどいよ、こんなにノリノリで踊っているのに!

「暴れている?そんなはずは…。今までもちびすけが動いているのは知っていたぞ。でも…こんなに激しく動いたことはないじゃないかっ!」
「いや…うぅぅ…。最近、とみに激しくなってきて…。元気なのは…わかる…うぅぅぅぅ…」
「おい!大丈夫か!オスカル!やっぱり、うまれるんじゃないかっ!」
「ち、違う!ちびすけが…元気…という…証拠…うぅぅぅぅぅ…。おい…。そろそろ…、やめろ、ちびすけ…」

もう…。のってきたのになっ!しかたがないな…。やめて…。

「やはり、おかしい!これは生まれる。そうだ、そうにちがいない!絶対そうだ!よし、待っていろ、産婆さんを呼んでくる。いいか!いいな!よし!行ってくる!」
「おい!アンドレ!違う!違う!」

…パパ…。違うって!
…はぁ…。
やっと、ママに母になる自覚が出てきたと思って安心したけれど…。
今度は…。
パパ…。
自覚がありすぎるというのも…問題だよ…。

パパ!パパ!

がんばりすぎっ!!




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天使のつぶやき 〜番外編〜