天使のつぶやき 〜本編〜
                                 作 かりめろさま


僕は今、ママのおなかの中。
これがなかなか大変なんだ。
なんと言ってもママは『オスカル・フランゾワ・ド・ジャルジェ』…。
パパはもちろん、『アンドレ・グランディエ』。
この跳ねっ返りのママのおかげでパパも僕も苦労するんだ。

あ、そうそう…。

どうして『僕』なのか…。

それはね…

ママのお姉様達も、おじいちゃまもおばあちゃまも跡取りの『男子』を待ち望んでいるから。実際、『僕』が男の子かどうかは、僕もママもパパも誰もわからない。生まれてからのお楽しみ!ってことかな?きっと『僕』が女の子であっても、きっとみんな、『僕』に溢れんばかりの愛情を注いでくれると思っているんだ。
だって…こんなに大変な時期に『僕』やママ、パパのために多くの人が準備や、心遣いをしてくれるんだもの。


さて…前書きはこれくらいにして…

『僕』の意識がはっきりした頃、ママは大変だった。
175年ぶりに開催された三部会は、結局、特権階級と被支配階級との溝を埋めことができないことを表ざたにし、ママの心はとても傷ついていた。

…『僕』は知っているよ。

そんなときは必ず、パパがママの側にいたんだ。
そっと寄り添うように。
ママが甘えたいときには、胸を貸していたし、ママが寝付けないときは、ぬるめのショコラを用意して、ずっと、抱きしめていた。
パパは、ママにとって心の支えであったし、パパはそんなママの心の支えになっていることに幸せを感じていた。

…『僕』は、そんなパパとママの子供でとっても嬉しいよ。

ママが大変なとき、実は『僕』も大変だった。
『女性』としての自覚に欠けるママは、馬には乗るし、徹夜はするし、雨の中何時間も立っているし。
時々、『僕』はママのお腹から、落ちそうになって…必死になってしがみついていた。
いや…あの時は…。
死ぬかと思った…っていうか、落ちていたらそうなっていたんだけど。
でも…。
あの『特製ジュース』…。
あの『特製ジュース』が『僕』を救ってくれた。
ママのすぐ上のジョセフィーヌ姉さまが、(一応)パパのためにって送ってきた『特製ジュース』。
確かにみんなには『有害』だったようだけれど、ママとママから栄養をもらっている『僕』には栄養補給としてとってもありがたがった。ママのお仕事は多忙を極めていたから、もともと、食の細いママには、あの『特製ジュース』が栄養源になっていたんだ。あのジュースでなんとか『僕』は、ママのお腹にとどまることができた。



一難去って、また一難とは…。このとき程、『僕』のことをいうんだと思ったときはなかった。

ママが、上官の命令に背いて、馬を飛ばし近衛隊の前に立ちはだかった。

…もう…ママったら!
本当に自覚がないにも程がある!

パパも、パパだ!!
クリスさんから、ママの『月のもの』の管理をするようにって言われたんだよ!気がついてもいいのに!
ん…?まてよ…。
この場合…。
『僕』にもしものことがあったら、パパの責任のほうが、大きい。だって、“あの”ママだ!『オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ』だよ!『女性』としての自覚のまったくと言って程ない、『オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ』だよ!ママに『懐妊』の兆候が判るはずがない!
…パパだって…身に覚えがあるわけだから、もしかしたらということを頭の隅においておかなきゃ!吐き気があって、酸味のあるものを難なく飲み干すことができて、食欲がない。まして…『月のもの』がないときたら、およその察しがついてもいいのに!

『僕』は思った…。いや…『決意』と言っても過言ではないだろう…。
自分の命は自分で守る!
たとえ…どんな困難が待ち受けようとも…。
どんなにママが無茶をしようとも…。
『僕』は…
『僕』は誕生してみせるっ!と。
『僕』の誕生を心待ちにしている人たちのためにも…。
そして…
こんなに愛し合っているパパとママに会いに。



おじいちゃまからママがこっぴどく怒られているとき、『僕』は疲れはじめていた。
なんとしても元気に世に生まれるんだ!という気力だけだった。
なのに…。
ママは…。
『僕』をみごもったことを認めてくれないし、また徹夜とかするし…。
ベルナールさんに軍から身を引けといわれてママがそれを承諾したときは…正直…
ほっとした。 
ほっとしたら…気が抜けたように…
ママのおなかにしがみつく力が抜けていった。
力が入らなくて…。
意識が遠のいた…。

その時…。

パパの声が聞こえた…。

『がんばれよ!ちび!今まで悪かったな。気がつかなくて。苦労しただろう?でもこれからは大丈夫だ。パパがお前を守ってやるからな。…お前に会いたいよ。…ちび…。』
温かい声だった。

パパの声は温かい。包み込むように…。

きっとママもこんなパパの声に包まれながら心の傷を癒していたんだろうな。
どんな子守唄よりも…温かい…。
まるで真綿に包まれるようだった。

それから、パパは、『僕』に話しかけてくれるようになった。

「おはよう!ちび!今日も一日、がんばろうな!」
「一日、無事に過ごせたな。あぁ、よかった、よかった。ちび、お前もよくがんばったよ」

『僕』はパパの声が何よりも元気の源だった。
パパが『僕』に話しかけるとき、ママは
「お前…。恥ずかしくはないのか?」
と言っていたけれど。
『僕』は知っているよ。
そんなことを言っているけれど、こんなときのママの顔はとっても優しい顔になっているって。

『僕』は反省した。
『僕』は自分だけがんばって生まれてこようと勝手に『決意』したことに。

『僕』には、パパがいる。
何よりもママと『僕』を守ってくれるパパがいる。
一見、ママの言いなりで頼りなげに見えるけれど、ママを言いくるめる…おっと、もとい、ママを説得することも、なだめすかす…おっと、もとい、もとい、ママを落ち着かせることもできるのはパパだけだ。
このパパがいれば…。『僕』は、みんなの前に生まれいづることができるだろう。
パパ、こんなはねっ返りのママだから、これからも目が離せないよ。
『僕』も気が抜けない。
でも…でも…
パパ、パパがいれば『僕』はがんばることができるよ。
パパ、パパの声が『僕』を元気にしてくれる。
だから…だから
パパっ!
がんばってっ!








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