親愛なるアンドレ・グランディエ
今日、ジョゼフィーヌから使者が来て、ル・ルーを連れて行きました。
全然根拠はないけれど、この件にオスカルが一枚咬んでいる気がします。
あなた、何か知らないかしら?
ジョゼフィーヌはオスカルに聞きたいことがあったら、アンドレに聞かないと返事はない、と言っていたので、あなたに聞きます。
ル・ルーはジョゼフィーヌのところで何をしているの?
わたくしの心配は、ル・ルーというよりジョゼフィーヌのことなのです。
なまじの予備知識なしにあの子に接すると…、わかるでしょう。
あちらのお屋敷に多大なご迷惑をかけてしまって、ジョゼフィーヌ
の立場が悪くなるんじゃないかと思うのです。
わたくしと主人はル・ルーのいない都会暮らしを満喫できて、有り
難いけれど、誰かの犠牲の上に成り立つのはどうも気が引けて…。
何か情報を持っていたら、教えてちょうだい。
これでも一応母親なので、ル・ルーのことは誰よりも一番わかっているつもりです。
心配はしたけれど、王太子殿下との謁見もことのほかなごやかに、
無事にこなしたようですし、御下賜品があとでびっくりするほど届いたのですよ。
ではお返事待っています。
忙しいところ、ごめんなさいね。
オスカルとあなたの姉オルタンスより
アンドレはため息をついた。
さすが、ル・ルーの母上だ、鋭い。
オスカルの小細工は、オルタンスの直感に完全に見破られている。
何の根拠もないというところがさらにすごい。
姉妹中で一番鈍感でおっとりしているオルタンスにル・ルーのような子どもが生まれて、みんな意外に思っているが、この第六感の鋭さは、どうしてどうして見事なものだ。
さて、どう返事をしたものか。
誰かの犠牲の上の平穏…このあたりがことに痛い。
オスカルの狙いはまさにここにあった。
毒は毒をもって、というが、簡単にいえば、ル・ルーをジョゼフィーヌに押しつけて、ジャルジェ家の平穏を得ようとしたのだ。
だが、オルタンスは、ジョゼフィーヌでは防ぎ切れない、と見ているようだ。
婚家に迷惑がかかり、立場を損なうとの心配は、実の母親の言だけに真実みを帯びている。
やはり危険な方法だったのだ。
ジョゼフィーヌはオスカルと渡り合えるほど強い。
だが、オスカルはル・ルーにやられてばかりだった。
ということは、オスカルと互角のジョゼフィーヌも…。
アンドレは、確かジョゼフィーヌからも手紙が届いていたはず、と気付き、急いでそちらの封を切った。
次の手紙です。
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