巡り巡りて



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                                      mokoさま 作


結婚式の準備もあり引越しに専念する暇が無い。生来、段取り性の俺は気になったことは確認しないと気がすまない。付き合いきれないと香はキッチン以外、俺に任せることにしたらしい。
インテリアはシンプルが一番だ、という言い訳を付け必要最低限の家具を注文し一気に運んでもらった。レイアウトを指示しながら自分でも持ち込んだものを配置していく。あとは衣類や寝具を買って持ち込めばいい。
香は自分の気に入った食器や調理器具をひとつひとつ手にとって選んでいる。ネットで頼めばといったらすごい目で睨まれた。まぁ銃剣を念入りに手入れしていたことを思えば女性らしくていいか・・・。

さすがに電化製品は一緒に見に行こうと、俺の休みを待っていてくれた。

「こんなに買うものがあるなんてびっくりした。真澄兄のものはほとんど使えないし」
「一人暮らしと二人じゃ大きさは倍以上ないと使いづらいからな」
「そうね・・・。あっこれCMでやってる掃除機〜。これいいのよねー・・・」

結婚後、暫くは主婦業に専念するつもりの香は、家事に必要なものは自分の意見でどんどん決めていく。この辺がオスカルを思わせて微笑ましい。
TVや冷蔵庫など大型製品が多かったので店員はかなり値引きしてくれたようだ。配達の日も二人がいられる日を指定したら気持ちよく応じてくれた。

梅雨時期の引越しは天気とにらめっこ。予定した三日間のうち二日を雨に降られてしまった。
細かいものだからと思っていたが、結局レンタカーでトラックを用意した。

「香の家で荷物を積み込んで俺の家にいって食事をする。それからマンションへ行って一気に運び込む」
「母上の作った食事が食べられるの?うれしいわ」
「夜は出来あいの物になるだろうから、うまいもの作るって張り切ってたぞ」

雨の二日間で室内は完璧、とにかく降り出す前に荷物を部屋に運び込めば何とかなる。
香の家で待ち構えていた篠塚の両親が一緒になって荷物を積んでくれる。

「今晩は二人の家で集まって食事だ、って森さん言ってたけど邪魔していいのかな?」

相変わらずお義父さんには冷やかされっぱなしだ。

「引っ越しそばは食べていただかないと、それにお義父さんに家を見て安心してもらいたいんです」

今晩から俺は独身最後の一人暮らしを始める。そうは言ってもたった二週間程度、しかもお互いの実家から車で10分程度の距離だ。香もちょくちょく寄っていくだろう。





あと二週間ちょっとで結婚式。本当はあの戦闘の後、式をするつもりだった。アンドレのばかやろうが勝手に逝ってしまったので翌日ロザリー達に世話になったそうだが、今度は正真正銘、7月13日に式を挙げる。
不安がないとは言い切れない。宿命は変えられないと転生した人たちは言う。ならば私たちに結婚生活はあり得るのだろうか・・・。そんな不安は見事に真澄兄に伝わってしまう。
「約束を覚えているか、あの夜交わした約束」
「・・・二人を死が分かつ時が来ても幾重にも運命を重ね私たちは愛し合う、でしょ」
「そうだ、これで分かったじゃないか。俺たちは約束通り生まれ変わりもう一度愛し合ったんだ」
「・・・」
「マリッジブルーってやつかな?母さんに話してごらん、きっと気が楽になる」
「・・・うん」
気付いていて大きな心で私を包んでくれる。きっと大丈夫よね・・・。



「すごーい、母上。私の好物ばっかり!!」
「香ちゃん、出来るだけ『お義母さん』といいなさい。使い慣れないと、とんでもない所で口から出てしまうわよ」
「はい、お・か・あ・さ・ん!!変な感じ」
「うふふふ・・・」「あははは・・・」
「女性たちは呑気なもんだ、まったく。腹ごしらえをすませたらすぐマンションへ向かうんだろう?」
「あぁ、とにかく天気が変わらないうちに部屋に入れてしまいたいから」
「じゃあ私達も一緒に行くか。荷解きは二人に任せて、レンタカーを返しにいこう。その帰りに夜の買出しだ」

父上はマメだ。前世もその才能はあったのだろう、時代の所為で発揮できなかっただけ、そう思う。

「お父さん、いつまでものんびり買い物していないでくださいね。大きいものは男の人でないと無理なんですから。真澄もお父さんの手綱しっかり握っていてよ」

ははは・・・と乾いた笑いが男性たちから聞こえてきた。



新居へ着くと大急ぎで荷物を運び込み、父子はさっさと出かけていった。嫁に来るのに嫁に出すような変な感覚だと母上は瞳を潤ませながら荷解きを手伝ってくれる。
「母上・・・私、7月14日から先、生きていられるのかな。真澄兄は結婚式を無事に終えられるのかな・・・。こわい・・・母上、怖いの」
母上と二人きり、やわらかい空気がとても心地よい。幼子のように母上の膝に頭を預ける。
「香ちゃん、大丈夫よ。前世とはいろいろなことが違っているじゃない?6人いたはずなのに結局一人しか産めなかった。それも私の子供はあなただったのに、男の子が産まれたわ」
「でも、みんな宿命には逆らえないって。私も宿命にそってにぃと愛し合ったわ」
「そうね、宿命は逆らえないかもしれないわね。でも命を絶たれることは宿命になっていないんじゃないかしら?私も香ちゃんも胸の病気にはなっていないし、真澄だって両方の瞳であなたを見つめているわ。信じなさい、二人の愛の力を」
やさしく髪を梳いてくれる母上の手。温かく包み込むような・・・にぃとはまた違う慈愛に満ちた手。この手も取り戻したのだから、大丈夫よね。
不安が消え去ったわけではない。でも立ち向かおう、今度はすべてが味方してくれる。ひざを涙でぬらしてしまった事を詫びて片付けを再開する。急がないと二人が大量の荷物と一緒に帰ってくる。



2週間なんてあっという間だった。何人かの友人と会い、お祝いと主婦の心得をもらった。
結局あわただしくて「彼」と「彼女」には会えなかった。気まずいままだけど招待状の返事はあった。来てくれるだけでうれしい、今度こそ二人におめでとうと言える。
あれからまだ一年も経っていないなんて信じられない。確かに「彼」のことを思っていたが、今となっては恋なのか恋する事にあこがれていただけなのか分からない。前世にもそんなことがあったような気がする。

何もしないで結婚式前夜になってしまい、古いアルバムを持ち出して三人で思い出を辿る。
母と手を繋ぎ、鼠の着ぐるみと一緒にはにかんだ笑顔。体操着で大きな口を開け、母の作ったおにぎりを頬張る得意げな顔。
どれもファインダーをのぞく父の愛情が伝わって自然と涙がこぼれる。ずっと大きな愛で包んでくれた両親に満足な親孝行もしてやれなかったことを詫びた。
「なに、遠くへ行くわけじゃないからこれから楽しみにしているよ」
「はい、お父さん。期待していてください。・・・本当にお世話になりました。お父さん達みたいに幸せな家庭を・・・作るから・・・」
「真澄君を困らせないように。彼に捨てられても帰ってくる場所はないぞ」
「お父さん、普通は『いつでも帰って来い』って言うのよ。花嫁の父なんだから」

結局泣き笑いで二人に挨拶を済ませ、日用品がなくなった私の部屋で眠りにつく。



今度は何も、失うものは無い。置いていかねばならないものもない。『Adieu』は言わなくていい。いつでも帰ってこられる私の部屋、育った家。
前世の辛かったことだけ忘れよう。私が覚醒したことですべてが繋がった、回り出した。今度は「名もなき英雄」じゃなくていい、皆が幸せならそれでいい。



・・・にぃは今頃どうしているかしら。





ロザリーは予定日が近いため東京の実家に預けられた。敬愛するオスカル様の結婚式だからどうしても出ると言い張ったが、オスカルから大事を取るよう電話が入りしぶしぶ諦めた。
出掛けに『オスカル様のドレス姿を肉眼で見られないからひとつ残らずおさめてくるように』とビデオカメラを持たされたとベルナールはぼやく。
「産まれてくる子供のために買ったんだ。なのになんで一番最初にオスカルを撮らなくちゃいけないんだ」

前夜祭をするのだとベルナールは前日からこちらに入ってくれた(この辺もロザリーの指示らしい)。アランを入れ三人でなじみの居酒屋へやってきた。祝ってくれるのか潰して楽しもうとするのか・・・。

「なーんか、むかつくな!!アンドレ一発殴らせろ」
「やめておけ、麗しの隊長に蹴りでも食らったら割りにあわないだろ」
「麗しのって・・・」
「赤くなるところがかわいいじゃないか、なあベルナール」
「二人して馬鹿にしやがって、明日の式なんか出ねーぞ」
「アラン、落ち着け『新井君』が出席しないと香が寂しがる」
「この余裕の顔がむかつくんだよ・・・ちぇっ」
「アンドレ、頼むから彼女をどこに行くでも連れて歩いてくれ。でないとロザリーが毎日通いそうで怖い。主婦同士だからとか何とか言って・・・」
「それは香から言い聞かせてもらったほうがいいな。俺も新婚を邪魔されるのはつらいから」

アランは悪態をつきながら酒を勧め、ベルナールは夫の悩みを打ち明けながら注ぎ、三人で酔いつぶれ店のマスターに送ってもらった。車を降りるときアランから『泣かしたら殺す』と凄まれた。あいつ明日こられるかな。



7月13日、晴れの日。
心配で眠れなかったと香が言う。数週間前から不安そうにしていたのでどうしたものかと思っていた。
香が今日を無事に越せるか心配していたのは知っていた。だけど単なるマリッジブルーだと母は言っていたし、俺はそんなこと起こるはずがないと思っていた。
だって俺は両目をしっかり見開いて眼の前に降臨した女神を見つめている。

純白の光沢がある生地と胸元のレースが品の良い女性らしさを醸し出している。年齢を考えてフリルの少ない物を選んだと恥ずかしそうに教えてくれた。
ベールに隠れた透き通るような頬を少し赤く染めて、あまり見るなという。はにかんだ美しい女神は今日俺の花嫁となる。

前世をなぞるのが宿命ではない。報われようと、報われまいと愛する人を魂が求める。それが『宿命』だと俺は思っている。だってみんなそれぞれの想い人のそばに転生しているじゃないか。

式の間中俺たちは泣いていた。今度こそ本当に夫婦になれた、そう思ったら涙が尽きることはなかった。本当はアンドレの両親にも見せたかった、転生しているのかいないのか。父さん母さん今幸せかい?俺はこんなに幸せだよ!
誓いのキスが長いと神父様に小声で諭されたのは二人の秘密だ。参列者の中にアントワネット様とフェルゼン伯爵が居るのに香は驚き、これも黙っていたのかと俺の脇腹を抓った。
フラワーシャワーの中、心からの笑顔を見せる香に思わず抱きしめ口づけをした。冷やかしの声が聞こえるけど知ったことか、俺は今最高に幸せなんだ。

披露宴の前に控え室に現れたアントワネット様は香とお互いに「おめでとう」を捧げ合い抱擁していた。オスカルがドレスなんてと「彼女」がささやき、でも最高にきれいじゃないかと「彼」に褒められていた。
俺の心は「あの日のドレス」を思い出し少し心がざわついたが、よかったなとフェルゼン伯に言われそれを隠し握手を交わした。
二人に冷やかされ肩まで赤くなった香は気付いたのか、俺の手を取り小さく「ウェディングドレスはにぃの為だけよ」と囁いてくれた。こんなに嫉妬深い夫でいいか?もう返品はきかないぞ・・・。

何事もなく無事13日を過ごした俺たちは愛の巣へたどりつき夫婦の生活を始める・・・はずだった。昨夜の飲みすぎに加え今日の緊張感、あげく二次会でアランに攻撃されすっかり泥酔した俺は香に介抱してもらい何とか眠りについた。
翌日『今日を迎える私の不安なんてどうでもいいんでしょ!!』と拗ねた香をなだめるのに常套手段を使ったのは言うまでもない。

ねえ、香。これで間違いないね。30年も40年も・・・いやもっともっと。
ずっと愛を育もう、そのために二人は生まれ変わったんだ。
オスカルとアンドレの無念を晴らすため、いつまでも愛し合うんだ。
何度でも、何度でも。
前世出来なかったことをいっぱいしよう。
キスをいっぱいしよう、何度も抱きしめ合おう。
どこに行くでも手をつなごう。
無理はしなくていいけど子供が出来たら嬉しいな。そして年老いて最期にもう一度約束するよ。

「二人を死が分かつ時が来ても幾重にも運命を重ね私たちは愛し合う」





新婚生活が始まって、前世では考えられない私の家事を珍しそうな顔で見ている。みていろ、そのうちフレンチのフルコースだって作ってやる。
昔と変わらず控えめでなんとも合理的な真澄兄は軽自動車を購入した。もうじき私の車が買い替えを迎えるので、その時きちんとしたのを買えばよいと言う。
副社長が軽自動車で出勤なんてと言うと車で仕事の良し悪しは左右されないと主張する。まあ社用車があるから体外的には問題ないのだろうけど。

そうそう、忘れてはいけない。ロザリーは7月13日に男の子を出産した、私たちの披露宴の最中に。途中で退席なんて無礼なヤツと思ったが仕方ない、「香平」の産まれた日が私たちの結婚記念日になったのだから。
ベルナールはなぜ私の結婚式に最後まで居なかったとロザリーに酷く怒られたと出産祝いのお礼の電話で嘆いていたそうだ。ロザリーは母になりますます逞しくなるようだ。



洗濯物を干したベランダは太陽の匂い。そうアンドレの匂い。空は雲ひとつなくどこまでも青くオスカルの瞳のように澄んでいる。両手を広げ大きく息を吸い込む。
怒涛のように過ぎ去った一年だった。ちょうど今頃前の彼と別れた、今では顔も思い出せない。フェルゼンに現世も思いを寄せていたのかと思うと正直赤面ものだ、恋に恋した青春。
今さら初恋だったと気付いた真澄兄との関係がめまぐるしく発展して行くのに正直戸惑いがあった。なぜこんなにもすんなり受け入れられるのかが分からなかった。でもにぃの腕の中が私の帰る場所だと思い出したときから、すべてつじつまが合い安心した。式当日が不安だったのはマリッジブルーだとは思わないけど、冷静に考えれば心配することはなかったかな?
今、私の心は今日の空のように清々しい。そして幸せが胸の中いっぱいに広がる。だって初詣のお願いがこんなに早く叶うなんて思わなかったから。

真澄兄の35歳の誕生日に最高のプレゼントが用意できた。すでに判明していたが年齢的に不安もあったので今日の二度目の検診まで黙っていた。結婚して初めての誕生日なので、本当は豪勢に祝おうと腕を振るうつもりだったがあえて普通の夕食を用意した。うれしいことは一度落ち込んでから聞くと何倍にも喜びが増す。こんないたずら、オスカルが頭を擡げたかしら。

誕生祝の花束を秘書室のコ達から貰ったとうれしそうに帰ってきたので腹が立ち無言のまま夕食の支度を始めた。着替えてきた真澄兄はテーブルにケーキもないので少しがっかりしたようだ。
「怒ってるのか?秘書室は常務以上にはいつも用意しているんだ、何の感情もないよ」
「その割にはうれしそうだけど・・・まあ、いいわご飯にしましょ」
「その・・・今日は・・・えーっと・・・香?」

ほかに何か私を怒らせることをしたのかと考えを巡らせ、思いつかないのか疲れたように椅子に腰を下ろす。情けない顔をして、捨てられた子犬のような瞳だけで訴える『今日は俺の誕生日なのに!!』

可哀相になりこの辺で許すことにした。ちょっぴり恥ずかしいのでにぃの後ろに回り肩を抱きしめ耳元で囁く。
「うふふ、すごいプレゼントがあるの・・・。赤ちゃん出来た」
「!!」

瞳が零れ落ちるかというほど目を大きく見開いて私を見る。手を引いて膝の上に導くとしっかり抱きしめてくれる。

「ホントに・・・うそじゃないな?俺を苛めて楽しんでるんじゃないよな?」
「ホントにホント!!お誕生日おめでとう。うれしい?」
「あぁ・・・うれしい!!うれしいよ香。ありがとう!!やったー!!」

私を抱き上げて部屋を走り回ろうとして、慌ててそっとソファーに降ろす。

「あぁ、大丈夫か。お腹痛くならなかったか?いいから!動くな動くな、俺がみんなやってやる。そうか、今度は二人分食べなくちゃ。よし、今から栄養のあるもの買いに行ってこよう。うーん、なにがいいんだろ・・・あーなんてすばらしい誕生日なんだ・・・」
「待って、落ち着いてったら・・・」
・・・帰ってきたらゆっくり言えばいいか。『おめでとう、パパ』



あの暑い夏、石畳の上に横たえられた愛しい男は、喜びの舞を踊る様に玄関のドアを開けて出掛けて行った。あの日銃弾に倒れ最期を迎えた私は体内に新しい命を宿した。私はこのまま34歳を迎えるだろう、大きなおなかを抱えて。
彼の愛に包まれ、やっと魂の行きつく先に帰って来られたのだと思う。



輪廻転生なんてことは現実にあろうはずはないと思っていた。

真澄兄が・香が、自分がそれと知るまでは・・・・。

本当にもう一度抱きしめてもらえるなんて、優しい声で名前を呼んでもらえるなんて思いもしなかった。
今度こそ二人で未来を紡ごう、そして来世もまた一緒になろう。ずっと・・・ずっと。

そう、幾度生まれ変わっても必ず探し出し、愛して見せる。魂の命ずるままに・・・。



















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