巡り巡りて



                   (7)     
 

                                      mokoさま 作


年始の出勤をすると昨日までのことが夢の中の出来事に思えて仕方ない。
不安になって昼休み、にぃにメールをすると《愛してるよ》と返事が返ってきた。まるであやすような文章にほっとしつつ、自分にあきれた。



旅行中、婚約という形になった私たちを、両親は手放しで喜んでくれた。
小母さんまで私の手を取って涙ながらに「よかったわね」と言ってくれた。小母さんは私の姑になるわけだが、こんなに嫁ぐことを喜んでもらえる嫁はいないだろう。
やさしくてやわらかな小母さん、きっと仲良く出来るわ。



新年会は本社社員がすべて集まるめったに無い機会だ。同期はほぼ寿退社をしているが産休を終わらせ戻ってきた子と近況を語って楽しんだ。
さりげなく婚約を匂わしたのがまずかった。あっという間に大木の耳の入り、ヤツは私の元へ飛んできた。

「誰と婚約したのですか?それはあなたの意見を聞かず、ご両親がが決めたものではないのですか?常務のお嬢様なら政略結婚の可能性もあるでしょう?」
「封建社会じゃあるまいし、そんなことはありません。私が誰と結婚しようと大木に関係ないでしょう?」
「その方を愛しているのですか」
「もちろん!!」

ばかみたいな問いにあきれ返りそっぽを向くと、お前は関係ないとばかりに新井が大木を遠ざけてくれた。
「おめでとうございます、式はいつですか」

唐突に祝いの言葉を新井に投げかけられてどぎまぎしてしまった。耳まで赤くなるのがわかる。

「篠塚さんがそんな風になるなんて意外でした。結構かわいいところあるんですね」
「からかわないで!!それに結納も式も何にも決まってないから。きちんと決まったらみんなに報告するわ」
「はいはい、ごちそうさまです。・・・まぁ、幸せになってください」
軽口をたたいた新井は最後に真剣な眼差しで握手を求める。
私はしっかりと彼の手を握り「ありがとう」と答えた。これでいい、あの時より新井は見違えるほど大人になった。

深山さんは新井より有望な社員を見つけたらしく、その彼といちゃいちゃしていた。あちらも満更ではないらしく周りはたっぷり見せつけられていた。私も早く帰ってにぃに会いたい。

こんなに幸せなのに相変わらず夢に悩まされ、不安は消えない。
にぃは小父さんの会社に入ったばかりで忙しいらしく、今までより近くに居るのになかなか会えない。それでも何とか時間を作っては顔を見せてくれる。

たまには喧嘩もするが不安ばかりを口にするのも申し訳ないのでつい強がりを言ってしまう。しかしそこは幼馴染、すぐに気付かれて逆に不安にさせてしまう。

「どうした、なにかあったのか。顔色が悪いな」
「大丈夫よ、にぃこそ忙しくてゆっくり休めないんじゃない?」
「俺はどうでもいい、お前眠れていないんじゃないか?すこし痩せたようだし」
「大丈夫。こうしてにぃに抱きしめてもらえればすぐに元気になるわ。心配しないで」
「本当に?出来るだけ時間を作るから無理はするな。何かあったらすぐに電話しておいで。歩いて5分とかからない所にいるんだからな、すぐに飛んでくるよ」

たとえ3分でも抱きしめあえば不安は拭える。
でも最近、夢を見るのが怖い。だって・・・だってにぃが死んでしまうんだもの。





環境が変われば誰でも気疲れをする。つい、待ち合わせに遅れる、話をいい加減に聞く。必要のない喧嘩をすることもしばしばあった。でも、その度絆が深まるようで幸せだった。
香は言う「もっと早く真澄兄と、こうなっていればよかった」
そうだね、でも遠回りした歳月が俺たちの絆をより強くしたんだよ。

満開の桜の下、結納と副社長就任パーティを済ませた。ますます忙しくなる俺をあきれて見ている香は相変わらず夢と頭痛に悩まされるらしい。このままでは結婚式の準備どころではなくなりそうだ。

タイミング良く、父が会員になっているリゾートホテルから招待状が来ていた。なんちゃらかんちゃらのパーティとスイートコテージ3泊分。渡りに船とはこのことだ、思い切って二人で旅行に出ることにした。覚醒を促せるか、大きな賭けだ。
まもなく三部会の開会という時期、現代の日本は大型連休に入る。香の傍にゆっくり居られるチャンスだ。俺の勘が正しければ、このまま覚醒しないとあの日に向けて香の不調はますます拍車がかかるはずだ。

今年俺たちは35歳・34歳になるが、前世この誕生日を迎えることは出来なかった。
あの頃、俺たちは混沌とした情勢の中で己のためよりも新しい国の礎となろうとしていた。
オスカルはさぞかし不安であっただろう。凛とした神々しいほどの軍服姿の下にある、か弱き腕にすべてを抱えていた。
あの頃、理想と現実の狭間でもがき苦しんだオスカル。三部会の警備をしていることがますます心に重石をのせ悶々としていた。加えて命令拒否、アランたちの投獄。そんな時期を必死に生きていた。
自分の信じる道を貫くためどれほどの葛藤を繰り返し、思い悩んだのだろう。

オスカルのそんな思いが夢に出てきて眠れないのだろうか、香は少しやつれた。
不眠症の香を心配していた篠塚の両親は『気分転換に二人だけで婚前旅行を』との申し出をあっさりOKしたそうだ。不眠症の理由は俺と居る時間が少ない所為だと付け加えていたことは知らなかったが。



「枕が替われば少しは眠れるだろう。真澄君が添い寝するほうが効果的か?」
「変なこと言わないで、恥ずかしいでしょ・・・」
婚前旅行を双方の両親は祝福半分、冷やかし半分の目で見送ってくれた。真っ赤になって下を向いたまま俺たちは車を発進させた。

「俺もいい加減、車買わなくちゃな。なにがいい?」
今回は二人きりなので香の車を出した。ロングドライブをしても香の体が楽な車内でかつ、お互いの距離がちょうどよかったから。
「だって、小父さんも小母さんも自分の車あるんだからミニバンをにぃが乗ればいいんじゃない?」
「あれは家族用。俺だけの車だよ、お前しか助手席に乗せない車。どうだ、選ぶ気になったか?」
「そうね、通勤やちょっとした買い物にミニバンは大きすぎるものね。・・・帰ってからゆっくり探そうね」
すこしずれた答えを返し、耳まで赤くなった香は窓の外を眺めていた。その様子が愛しくて、無性に抱きしめたくなった。電車にすればよかったかな・・・。
「眠れそうだったら寝ていいからな」
「うん、そうさせてもらうわ。でも運転し慣れた車の助手席って変な感じね」
そう言いながらも高速道に入るころには眼を閉じていた。俺と居れば眠れるのかと少し優越感に浸ったのに、結局香は眼を瞑っていただけで寝息を立てるまではいかなかった。



新緑が美しいこの湖は静寂に包まれたベルサイユの森によく似ていた。側には俺たちが泊まる会員制ホテルが一軒だけ。ゆっくりと香の話を聞いてやるのにうってつけのシチュエーションだ。招待状があったにせよ、我ながら忙しい中よく段取りしたものだと思う。まあ昔(前世)からオスカルのためなら二つ返事で希望を最大限叶えてきたんだ、このくらい朝飯前なのだ。

美しい湖のほとりを散歩して、景色のいいベンチを見つけた俺たちはどちらともなく寄り添い腰掛けた。
深呼吸をすると体中が浄化されるような清々しい空気が俺たちを包む。それなのに香は疲れたのかため息をつく。

「最近どうした?ずいぶん眠れていないって小母さんが心配してた。まだ変な夢を見るのか?」

これが原因だとは分かっているが聞いてやらないと話してくれなそうだった。

「う・・ん・。ちょっと疲れてるのかも。新入社員の配属があったり退職前の引き継ぎとかで忙しいから。にぃのほうが疲れてるんじゃない。今回はゆっくりしようね」

さりげなく会話をはぐらかしている。最近、核心に触れようとすると香は逃げる。どんな夢を見ているのか、何が香を不安にさせているのか。凭れかかる香の体重が頼りない。

「香、俺たちは結婚するんだ。隠し事は無しだろ。俺はそんなお前が不安なんだ、話してくれないか?不眠の理由を」
「怒らない?」
「あぁ、約束する」
「・・・幸せなの、とっても。なのに何か足りない感じがして・・・。幸せなのよ、にぃを愛してる。にぃから離されたら今以上不安になって、それこそ病気になっちゃう。でも、なにが足りないのか自分でも分からない。自分にあきれちゃうのよ、私ってこんなに欲張りだったのかしらって」
「大丈夫だ。もっと欲張りになっていい、限りなく与えてやる。約束しただろう、二人で幸せになるって。絶対お前から離れない。足りないものは二人で埋めよう。な?」
「ねえ、にぃ。今の言葉ほんとに信じていい?ほんとに他に想っている女の人いない?」

泣きそうな香の肩をしっかり抱き寄せた。急に、何を言い出すんだ?

「居る訳ないだろう!誓ってお前だけだ」
「そうよね、分かってるはずなのに。愛されてるって分かるんだけど、ときどき私の向こうに誰かを見ているような気がしたの。ほんとに私、どうかしちゃったのかしら」

俺はどこかで、オスカルと香を分けて考えていたのかもしれない。覚醒寸前の敏感な香には不安要素の一つになっていたんだ。俺はアンドレで真澄だけど一つの魂、オスカルと香も一つの魂だ。俺がしっかりしなければ!!





「夢の所為かもな?最近夢の話をしないけど続いているんだろう?」
「うん・・・。でも、大丈夫よ」
「話してくれないほうが俺には心配だな。話してくれよ、辛い事も俺に分けてくれ。なぁ香、二人でいたら幸せは二倍、辛い事は半分。そう誰かが言ってたぞ」

話してしまおうか。黙っていて真澄兄にこれ以上心配かけるのは辛い。

「夢が・・・最近同じ夢ばかり見るの。にぃが私を庇って死んじゃうの・・・。どうしてこんな夢を見るの?怖いの、眼が覚めても夢の中みたいで不安が胸に広がるの」

さっきからひどく頭が痛い、眼を開けていられないほど眩暈がする。あの人が、金髪のあの人が話すことを止めるように訴えかけてくる。そのたび脈を打つように頭痛が激しくなる。

《言ってはいけないよ、彼を苦しめる》・・・でも、私は話してしまいたい。

「すごく生々しいの、本当に眼の前で起こっているようで・・・馬に乗った私の前ににぃが飛び出して、銃で撃たれるの。手当をしようとするけど、にぃが水を飲みたいって言うから・・・。でも・・・、でも死んでしまうの、にぃが」

泣いてしまって声にならない。落ちつけとにぃが背中をさすってくれてもう一度話しだす。頭が割れるようだ・・・。

「夢を見るのが怖いの、眼が覚めたら現実に起こりそうで。眠ったら夢を見るから眠りたくないの。それにこのことを考えると頭が痛くなるの、今も・・・少し痛い・・・」
「部屋へ帰ろうか、休んだほうがいいな。歩けるか?」
「大丈夫・・・。コテージに帰ろう」

にぃにしがみついて無言のまま歩く・・・。
眠ってもいないのに頭の中に夢の映像が繰り返し流れている。気分が悪くなり立ち止まるとにぃが抱き上げてくれ、そのままコテージの寝室まで運んでくれた。
その腕のぬくもりがこの不安をかき消してくれると同時に足りないものが何なのか教えてくれそうだった。そう、この腕は誰なのか。

ベッドに横たわり目を閉じるとシネマを見ているように映像が映し出される。

砂埃と照りつける太陽。人、人、人。怒りに満ちた人々の感情が津波のように押し寄せる。
私にではない、それどころか私はその波を指揮している。

『弾丸こめー!進撃』

なぜ、どこへ?

『撃て、撃てーッ!!』

皆私の指揮に従い確実にドイツ人騎兵を追い詰める。
仲間が一人、二人と倒れて行く・・・だめだ、逝くな〜〜。
ふと、私の体の奥から喉を押し開くように塊がつきあがる。うつむいた瞬間眼の前に彼が・・・。

馬から滑り落ちる彼を抱える私の腹心。傍に寄り沿い前線を離れる私を叱る彼。だって私は彼を愛している!こんなにも女なのだ。死ぬな!死ぬな!死ぬな!
何を歌っている?眼が見えないのか!!馬鹿なっ!あぁ、なぜ私は気付かなかった・・・あぁ、水か、今・・・、・・・。

「あああぁー・・・アンドレぇーーー」

渦の中に放り込まれたような眩暈の中、真澄兄がしっかり私の手を握ってなにかつぶやくのが耳に届く。
「・ス・・、香。大丈夫だよ・・カル。香、オスカル。俺がそばに居る・・・・心配するな、絶対に死なない。今の俺はお前を庇って死ぬんじゃなく、香、お前を守るために生き抜いてやる。だから安心して、オスカル!!」

オスカル・・・!!オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ!!私の名前。これも私の名前だった。

『お前を守るため生き抜いてやる』そう言われた瞬間、夢の中の『私』が泣きながら微笑んだ。


・・・・・・・・・・本当だなアンドレ。嘘じゃないな?
あぁ、アンドレ。もうお前を失いたくないのだよ。私はお前を傷つけてばかりだった、与えてもらうばかりだった。私が居たらお前はまた自分を犠牲にして私を守ってしまうと思ったのだ。すまない、またお前を待たせてしまったな。お前は私が分かっているのだな『オスカル・フランソワ』だと・・・・・・・・・・・・・


そうだ、アンドレだ。今まで足りなかったのはアンドレだ。そしてオスカルだったんだ。
今はっきりと断言できる。他の人ではだめだった、どの人の胸も腕も違っていた。
それは「アンドレ・グランディエ」の所為だった。アンドレであるにぃをオスカルである私が求めていた。
思い出したの、にぃ。私、約束したのよアンドレと。

頭の中の靄が晴れ、あんなに辛かった頭痛と眩暈は消えた。
その代わり母の懐のような安堵感と心地よい疲労感に、そのまま私はオスカルと夢の中へ出かけた。





熱はない、落ち着いて寝息を立てている。先ほどのうわごとで確かに俺を『アンドレ』と呼んだ。覚醒したんだ!!

皆が言うには男と女は覚醒の仕方が違うらしい。
俺も父も熱を出し2〜3日眠りについた。アランもベルナールもそれは同じだった。
しかし、母は、ロザリーはいきなり覚醒した。では、オスカルは?
半年ほど前世の夢に悩まされているだけでなかなか覚醒しない。
間違いない、オスカルはあの日、俺がオスカルを置いて逝ってしまったことが自分の所為だと悔やんで覚醒を拒んでいたんだ。それを解くには俺が生きて傍に居ることが不可欠なんだ。

すまない、オスカル。俺は前世お前と共に生きると言ってお前を置いて逝ってしまったね。でも、ああしなければお前一人を逝かせてしまうようで辛かったんだ。
俺の我儘だったね。眼の事も黙っていてごめん、そうしなければ傍に居られないと思ったのだよ。
お前は本当に俺を愛してくれた。だから絶対連れていってもらえないと思ったんだ。
そうだろう、オスカル。愛しい者を自ら危険に晒すような行為はお前が一番嫌がったことだ。デュ・バリー夫人との奥様の件だってあんなに嫌がって。
でも、俺はお前とあの夜約束したじゃないか。

「二人を死が分かつ時が来ても幾重にも運命を重ね私たちは愛し合う」

そう言ったのはオスカルだよ。だからこうして同じ時代に産まれてきたんじゃないか?
俺の所為で遠回りしてしまったけど、もう離れないよ。今度こそ二人で未来を描こう。オスカルとアンドレのためにも。

オスカルと夢路を辿っているのか香の柔らかな笑顔を見ているうち、俺もベッドの脇で船を漕ぎだした。それでも香の手はしっかりと握っていた。愛しいぬくもりを離せない。



カーテンの隙間からきらきらと宝石のような朝日が俺の瞼に注がれて、ここがホテルのコテージだということを認識させてくれた。あのまま朝まで眠ってしまったのか。
香の額に手を当て熱がない事を確かめる。昨日まで生気を失ったような頬はうっすら桜色に染まってきた。よかった・・・。
でも、目覚めるまでは大丈夫だとは言い切れない、傍を離れるわけにはいかない。完全に覚醒したのだろうか、それより香は目覚めてくれるだろうか。あのままオスカルが夢の世界に連れて行ってしまわないとも限らない。不安はぬぐい去れない。
「オスカル、どうか香と一緒に目覚めておくれ。お前たちは一つの魂なんだ。俺はその魂を愛しているんだ」

「アン・・・ド・・レ?」
「香、大丈夫か?頭は痛くないか?俺が分かるか?」
どの問いにも答えは返って来ない、まだ夢と現の境に居るような顔だ。
「かお・・り?」
今、たしか『アンドレ』と言った!!
「そうだ、アンドレだ。今は森真澄だけどね。お前はオスカル・フランソワだろ?今は篠塚香、もうじき『森香』になるんだ」
「あぁ、にぃ!!私は・・・オ・・スカ・・ル。アンドレ!!私はオスカル・フランソワなのだな」
しっかりと目覚めた香は起き上がると、ベッドに腰掛けた俺の胸に縋りすべての思いを吐き出す。

「あぁ、アンドレ!アンドレ。なぜ、私を置いて逝ってしまった、どうして見えないのを黙っていた。喜びをともにし、苦しみを分かち合い近く近く魂を寄せ合ってきたのに・・・。
なぜ神はお前だけをお傍に召され、私を残したのか。神に背いても私は死にたかった、お前の居ない世界など生きていても意味が無かった。
私の所為なのに、いつだって傷つくのはお前ばかり。消えない傷痕、美しかった黒曜石の瞳、お前はついに命まで差し出してしまった。なぜ?私が傍に居たから?私が一人で何も出来ないから?
でもどんなに自分を責めてもお前は二度と私を抱きしめてくれない。どんなに揺さぶって泣きついてもお前は帰ってこない。あのやさしい微笑みも声もすべて・・・。
狂ってしまいたかった。あの時私も死んだ。オスカル・フランソワという入れ物を残して、魂が眠りについたんだ」

「ごめんよ、もう絶対に離れない。ここにあのパリのような危険はない、お前を危険に晒すことはもうない。だから俺もあんな危険を冒すことはないさ」

「怖かった。私がそばに居たらお前はまた傷つくかもしれない、自分を犠牲にするかもしれない。だから目覚めるのが怖かった、目覚めたらまた私を置いて逝ってしまいそうで・・・」

「ずいぶん臆病にさせてしまったな。もう大丈夫だ、俺たちは間もなく結婚するんだぞ。いまさら嫌だと言われてももう引き返せない。今度のおれは我儘に振舞うんだ、前世はずっと抑えてきたからな。誰にも渡さない、絶対にお前を放さないよ。なぁ、今度こそ二人で歳を重ねよう、30年も40年も・・・もっともっと・・・」
「うん・・・。離さないで、ずっと、今度はずっと一緒よ」

抱きしめる体がだんだん生気を取り戻してくる。ここに滞在している間に混乱も収まるだろう。
俺の腕の中にいる愛しい魂の持ち主に優しく口付けをする。唇を離すと恥ずかしそうに俺の胸に顔をうずめつぶやく。

「篠塚香・・・。オスカル・フランソワ・・・。森・・香・・・フフフッ」
















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