「諸君も知ってのとおり このような非常事態ゆえ 二週間の休暇しかとれなかったことをもうしわけなく思っている。2週間後にまたここであおう 元気で!」

練兵場にオスカルのよく通るアルトの声が響いた。
聖誕祭をはさんでの衛兵隊ベルサイユ駐屯部隊の休暇は、とれただけ奇跡的であり、それはアンドレの奔走に負うところが大きかったが、たとえ二週間でも兵士たちには充分あり
がたいものだった。
ことに、アラン・ド・ソワソンにとっては、今度の休暇で帰ったら、妹が式を挙げると予定しており、その休暇がいつになるのかがソワソン家の重大事だったから、隊長から解散後に特別に「ディアンヌ嬢にわたしの心からの祝福をつたえてくれ」
と、声をかけられたときも、フンと顔を背けながらも悪い気はしていないようだったのが、アンドレには見て取れた。

オスカル自身の休暇中の予定は、とりあえず今日のうちにムードンで療養中の王太子殿下をお見舞いし、翌日ゆっくり休養したら、アンドレとともに小旅行に出て、聖誕祭の2,3日前に戻り、お集まりの姉上方と両親と久しぶりに賑やかなノエルを過ごす、というものだった。
無論、オスカルは希望を口にしただけで、手はずをととのえるのはアンドレの役割だったが、口にした以上かなえられなかった試しはまずなかったから、オスカルは久しぶりにゆったりと過ごせそうな休暇に上機嫌だった。
 
しかし、ご病気の王太子殿下にお目にかかるというのは、おいたわしいさにこみあげるものがあった。
王妃さまのお話では、あと半年もつかどうか、ということで、こんなにも聡明で美しい殿下が、なぜこんな悲劇を背負うことになったのか、もし許されるなら神をも恨みたい思いが繰り返し心に押し寄せた。
わずか7歳、成長の暁には、必ずや名君におなりあそばす、とオスカルは確信していた。
しかも、そのかたが、
「あなたが…すき…」
「いそぐから…まって…」
とおおせられたのだ。
ムードンから戻る馬車の中で、アンドレにもたれながらオスカルは
「わたしは王妃になりそこなったぞ…」
とつぶやくと、あとはただずっとその胸に顔をうずめていた。

第 1 章


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