第 2 章
パ リ
ムードンから帰った翌日は、予定をなにも入れていなかったので、オスカルは久しぶりに
朝寝を堪能した。
眠りにつく前の酒は、随分軽く、また少なくなっていたにもかかわらず、熟睡できるようにな
った。
視力を取り戻したアンドレが、オスカルの顔色の悪さに驚き、尋常でない酒量が原因と判断
したのは当然だった。
彼は毎夜、仕事を終えるとオスカルの部屋を、ショコラや、ティー、カフェなどの飲み物ととも
に訪れ、ともすれば酒瓶に手をのばそうとするオスカルをさりげなく制した。
おかげで、以前は強い酒で飲みつぶれるようにしても、なお安眠を得られなかったオスカ
ルは、心地よいぬくもりを感じつつ、額にアンドレからのおやすみの口づけを受けると、ぐっ
すりと眠れるようになった。
くったくなく眠りにつくオスカルを見ると、口付け以上に進むのは決して許されないことと思
われ、複雑な思いが去来するのを、アンドレは気の遠くなるような自制心で押し込めた。
休暇初日の今朝は、軍服に着替える必要もないので、オスカルは寝台からゆっくり降りる
と、白いレースをほんの少し襟元にあしらったブラウスを着て、やや肌寒かったので上着を
はおり、部屋に用意されていた朝食をとった。
庭園で何やらざわついた声がして、窓辺に様子を見に行こうと立ち上がったとき、アンドレ
が入ってきた。
「オスカル、今、フランソワが来ている」
「フランソワ? 隊の方でなにかあったのか?」
「いや、アランのことだと言ってる」
「アラン?」
「とにかく急を要するらしい。すぐにおりてきてくれ」
「わかった!」
アンドレのあとを追うように階段を下りると、血相を変えたフランソワが、とんだ場違いに来
てしまったことにおびえながら、あたりを見回していた。
「フランソワ、アランになにがあった?」
突然、上から声をかけられてびっくりして眼をあげたフランソワは、
「隊長!」
と、泣きそうな声で駆け寄ってきた。
軍服ではない隊長に、普段とは違う雰囲気を感じたフランソワは、
「落ち着いて、順序立てて話せ」
という隊長の声が、まったくいつも通りだったので、ほっとして、とにかく一緒に来てくれるよ
う懇願した。