フランソワが乗ってきたみすぼらしく狭い辻馬車に、オスカル、アンドレが乗り込むと
窮屈この上なかったが、とりあえずオスカルとアンドレが並んで座り、フランソワはその
向かいに座った。

「俺たち、一班全員でディアンヌのお祝いを持って行こうってことになったんです。アラン
はきっとそんなことするなっていうだろうから、内緒にして…」
「なかなか、いい話ではないか」
オスカルはできるだけふつうに会話できるよう、相づちをうってやりながら、アンドレを見た。
「ああ、らしくないがな」
アンドレもそのあたりの呼吸は心得ていてうまくあわせている。

「それで、今日みんな集まって、アランのとこに行ったら、ディアンヌはおふくろさんと婚約者
のところに行ってて留守で、アランだけが残ってて…」
「おまえたちの暖かい祝福に感動したってわけか?」
とアンドレが言葉をつないでやる。
「びっくりしてた。でも怒ってなかった。日取りを決めに行ってるけど、もうすぐ帰ってくるから
待ってろって言ってくれた」
「よかったな、どやされなくて…」
と、今度はオスカルが合いの手をいれる。

「そしたら、真っ青な顔をしたディアンヌとおふくろさんが帰ってきて…、本当に幽霊かと思っ
た」
その光景を思い出したのか、フランソワが身震いした。
「なにがあったんだ?」
アンドレの穏やかな声が、フランソワを勇気づけた。
「婚約者は、別の女と結婚した、もうここにはいないって言われた、と」
「!!」
オスカルもアンドレも息をのんだ。

「ディアンヌは泣き出して、何も話せなくて、おふくろさんが、ぽつりぽつり話した。相手は平
民だけど金持ちで、最近、商売の関係で知り合って、とんとん拍子に話が進んだんだって。
でもディアンヌには言い出せなかったらしくて、それで、今日、結婚式の日取りを決めるため
に二人が行くと、家のものが気の毒そうに教えてくれたんだって」
オスカルとアンドレは思わず目を合わせた。
嫁ぐ日をあんなに楽しみにして、まぶしいくらい美しかったディアンヌ…。

「アランは…」
「そうだ、アランはどうした?」
オスカルが尋ねた。
「もう、人相が変わってた。怒って怒って、剣をもって飛び出して…」
「行ったのか?」
アンドレが続けて聞いた。
「今、みんなでとめてる。でも、俺たちだけじゃとてもとめられそうにないんだ!きっとアラン
は相手を殺しに行ってしまう。だから、隊長、アランを止められるのは隊長しかいない、とめ
てください。お願いします!」
オスカルもアンドレも言葉が出なかった。
以前、ディアンヌに手を出そうとした上官の顎をくだいたアランのことだ。
今回のことで、どれほど激高しているか、想像するだに恐ろしい光景が浮かぶ。
「よし、わかった。フランソワ、よく知らせてくれた。アランのことはわたしにまかせろ!」「お願
いします!」

パ  リ

第 3 章