パ  リ

第 14 章

オスカルの希望通り、夕食はアンドレの分も一緒に用意され、二人は差し向かいで食事をとった。
不思議なもので、こんなに長くいつも一緒にいるのに、話題は尽きることがなく、むしろいつも一緒
にいるがゆえに、どんなことを話題にしても話が続いた。
アンドレはそんなに多弁ではないが、聞き上手で、気持ちよく話をさせてくれる。
それが居心地のよさを作りだし、時々差し挟まれる彼の言葉を引き立てる役割を担っているんだな
、と、オスカルは再認識した。

コゼットが夕食を下げに来た。
アンドレも手伝いで一緒に部屋を出て行った間に、オスカルは暖炉の前に置いてあった長椅子を
引きずって、部屋の隅によけ、かわりに毛足の長いペルシャ絨毯を引っ張ってきた。
暖炉の横には薪が積み上げられ、それだけで暖かい気持ちになれる。
あいつらもなかなか味なことをする。
絨毯に転がりながら、オスカルは思い出し笑いをした。

扉が開いて、アンドレが戻ってきた。
まさか、暖炉の前に寝転がっているとは思わないので、
「オスカル?どこだ?」
と、探しているのを、片手だけ高く掲げて
「ここだ、ここだ」
と呼んだ。
「何してるんだ?」
手に持った盆をテーブルにおきながらアンドレが訊いた。
「おまえもこっちで寝そべってみろ。気持ちがいいぞ」
幼い頃を思い出し、言われるままに、アンドレはオスカルの隣に横たわった。

二人で薪が燃えるさまをしばらく無言で眺めた。
「暖かいだろう?」
耳元でオスカルが尋ねる。
「ああ、本当に」
今は子供ではないことを思い出し、アンドレはふれあう肩から伝わるオスカルの体温にドキリとす
る。
「あいつらの心がこもっているようで、余計に暖かく感じるのだろうな」
と言いながらオスカルが頬をアンドレの肩にすり寄せた。
これくらいなら許されるだろう、とアンドレはオスカルの肩に左手をまわして抱き寄せた。
「おまえのぬくもりもあるし…」

コゼットとジャコブは庭番小屋にひきあげた。
今、この屋敷にいるのは二人だけ。
突拍子もない思いつきだと思ったが、悪くはなかったな、とアンドレは思った。
だが、こんなことをしていると、自分の部屋に引き上げる決心がつかなくなる。
どこかで思い切らないと…。
「テーブルの上にワインを持ってきた。飲んだら俺は部屋に戻るよ」
と、立ち上がりかけた。

「そばに…いて…くれ…」
「オスカル…?」
「わたしをひとりに…しない…で…」
あまりにはかなげなオスカルに、思わず抱きしめた。
「どこへもいかないと…。アンドレ…」
「どこへ?おれのいくところがほかにあると思うのか?」
そうだ、俺がいったいおまえのそば以外のどこへいくというのだ?
白い顎に手をかけ上を向かせると、たまらず口付けを落とした。
オスカルの両腕がアンドレの首に巻き付く。
「今夜ひと晩をおまえ…と…。おまえと…いっしょに…」

アンドレの中で押し込めていたものが堰を切ってあふれた。
もうじゅうぶんだ。
俺は待った。
もう待たない。
アンドレはオスカルを抱き上げ寝台に運んだ。

夜をこめて いま 神はその御前に おさななじみの ふたりを むすびあわせたもう
むすばれるべく 生まれてきた 美しきふたりゆえに…


                                                       終わり