パ  リ

第  6  章

アランとディアンヌを二階に残し、他の者は下へ降りた。
ジャンとミッシェルは使いに出て、残りの兵士たちは
「みな、ご苦労だったな。君たちのおかげで最悪の事態はさけられたようだ。とりあえず今日はひきあげてやっ
てくれ」
とオスカルにうながされ、2週間後に会うことを約束して、それぞれ帰っていった。

階下にはオスカルとアンドレ、アランの母親、そしてどうしても心配だからと聞かなかったフランソワが残った。
「さて、わたしたちはどうするか…だな」
とオスカルが言った。
「今、ジャンたちにクリスを呼びにやってる。まずはその帰りを待とう」
「クリス?」
「ああ、ラソンヌ先生のお宅はここからそう遠くない。今のディアンヌにはむさ苦しい兄貴や俺たちよりも、同
年配の女性の方が、心許せるだろう」
オスカルの胸に、ちらりと、わたしもれっきとした女性だが…という思いが浮かんだ。
同年配とは言い難いが…。

「隊長とアンドレってやっぱりすごいですね」
突然、感にたえたようにフランソワが言った。
「なにが?」
と、アンドレが聞いてやる。
「アランには隊長、ディアンヌにはアンドレ。見事な役割分担だ」
フランソワはしきりにうなずいている。
「ふつう反対だと思うよな。隊長は一応女なんだからディアンヌで、身体の大きいアンドレがアランを力ずくで押
さえる…って。ところが実際は反対なんだ」
悪かったな、一応女で…、とまたオスカルの心の声がぼやく。

「アンドレは女の扱いがうまいんだね。なんか慣れてる感じ…」
無邪気なフランソワに、少しまずい方向に話が進んでいると察知したアンドレは、さりげなく話題をかえようと
「ところでラサールは何をメモしてたんだ?あんな時に…」
と聞いた。
「ああ、あれね、アンドレがディアンヌに言ってた言葉、今度酒場で女の子くどくときに使えそうだって。アンドレが
もてる理由はこれかって感心してた」
やぶへびだ。



「おまえたちはよく一緒に酒場に行ってるのか?」
いたって平静にオスカルが、あえてアンドレの方は向かず、フランソワを見て尋ねた。 
「あ、はい。はじめのころは全然つきあわなかったんだけど、いつ頃だったかな、アンドレが時々一緒に飲むように
なったの…。確か9月の終わり頃だよね?」
「あ?ああ」
オスカルに結婚話が持ち上がり、ジェローデルを迎えての晩餐会が続くようになった頃から、アンドレは一旦、
オスカルとともにジャルジェ邸に帰宅したあと、パリの街に出るようになった。
そして偶然、みんなで飲んでいる1班の連中に会い、仲間に入るようになったのだ。
だが、この場でそんな話は出せない。

「で、アンドレが女の扱いに慣れてるとは?」
おいおい、何を聞いてるんだ、オスカル、と喉まで声がでかかった。
これも網なんだろうか?
「なんていうか、いっつも女の子が寄っていくのがアンドレなんです。特別愛想がいいわけでもないのに」
「ふーん、なんでだろう?」
「みんなは顔がいいからだって言ってたけど、今日のアンドレの言葉を聞いてて、これか!と思ったんですよね。
だからラサールもメモとったりしたんだろうけど」
「なるほど…、くどき上手というわけか…」

たまりかねたアンドレが声を出した。
「オスカル、フランソワ、いい加減にしないか。アランとディアンヌのこんな大変なときに、なんで酒場談義になる
んだ?」
もっともな話だ。
確かに不謹慎だ。
オスカルとフランソワは気まずそうに黙った。
が、オスカルは小さな声でフランソワに
「今度からわたしも仲間にいれろ」
とささやくのを忘れなかった。