月明かりの中を帰宅したオスカルが、ばあやと侍女に囲まれて部屋に戻るのを見送って、アンドレが自室に向かいかけたとき、執事に手招きされた。
「おまえあての封書を預かっている。取りに来なさい」
と言われ、後ろに続いた。
めずらしいこともあるものだ、と首かしげながら、執事室に入ると、机の上に随分と瀟洒な封書が数通積み上げられていた。
確か自分あて、と聞いた気がしたが、オスカル宛だったのか、と思い、いや、それならわざわざ俺を通さなくてもいいはずだ、と思い直した。
執事のラケルは、つかつかと机に近づき、封書を大事そうに取ると、アンドレに言った。
「おまえが夜勤で帰らなかった一昨日2通、そして作日になって3通届いた。おまえは昨夜の帰宅も遅かった上、オスカルさまに呼ばれたきり、なかなか退室してこなかったので、渡すのが今日になってしまった」
オスカルの部屋に長居したことを弁解するよりは、さらりと流した方が、疑惑を抱かれない。
屋敷の中で二人が夫婦であることを知っているのは伯爵夫人とばあやのみ。
だんなさまに極秘でいる以上、執事に知られるわけには行かないのだ。
ただただ、自然にふるまうことを心がけた。
「そんなに?!」
驚くアンドレに執事は続けた。
「差出人は、マリー・アンヌさま、クロティルドさま、オルタンスさま、カトリーヌさま、そしてジョゼフィーヌさまだ」
「…!!」
「おまえ、最近お嬢さま方に何か失礼なことでもしたのか?」
真顔で執事が心配するのも無理からぬほど異例のことだが、アンドレとしては全く身に覚えがない。
あわてて、首を振った。
「そうか。わたしも忙しいおまえが、すべてのお嬢さま方のお叱りをうけるほどの粗相をする暇などないとは思ったのだが。偶然にしてはちょっと…な」
「ご心配はもっともですが、身に覚えはありません」
「そうか。まあ、事情はともかく、おまえ宛のものだ。よく目を通して失礼のないお返事を急ぎ書いた方がよかろう」
執事は、封書の束をアンドレに渡した。
部屋に戻ったアンドレは、テーブルの上に5通の封書を並べ、しばらくながめていた。
今までに、使用人である自分にオスカルの姉上から個人的な手紙がきたことといえば、馬車襲撃で負傷したときのカトリーヌからの見舞い品に添えられたカードくらいである。
このような封書が、5人全員から、しかもほぼ時を同じくして届くなど考えられないことだ。
ノエルの例もあり、また何かおそろいで計画なさったのだろうか、とも思ったが、とにかく考えていても始まらないので、アンドレは目を通してみることにした。
この場合、やはり年齢順に開封するべきだろう、と判断し、まずはマリー・アンヌの見事な筆跡による署名が入った、一番上等な封筒を手に取った。
以下が各姉上からの手紙です。
それぞれのバナーをクリックしてください。
各バナーの下の日付順にアップしました。
できればその順番でお読み下さいませ。
2006/08/17 2006/08/19 2006/08/20 2006/08/26 2006/08/23
親愛なる…
アンドレお誕生日企画へようこそ
※どこかで見たような企画ですが、当サイトはマンネリがモットーですので(開き直り)お心の広い方のみ、おつきあいくださいませ。m(_ _)m
さわらび